本研究の目的は,環境教育が幼児期の子どもの心身の発達にどう寄与するかについての実証的なデータの収集・分析を通じて,幼児期における環境教育の意義を明確化し,その具体的方法についてエビデンスに基づいた提案を行うことである。 今年度は,宮崎県,福岡県,広島県に位置する多様な周辺環境(都市部・農村部・漁村部など)および環境教育に関する方針を持つ8つの保育園・幼稚園を対象に,幼児の心象風景を明らかにする手法としてS-HTP描画法を用いた調査を実施した。 調査を通じて収集した約400枚の描画を分析・検討した結果,幼児の心身に対する環境教育の影響を判読していくうえで,①生活経験(絵の内容),②運動コントロール能力(筆圧、ていねいさ),③認識力(構成など)の3つの観点の重要性が明らかとなった。すなわち,自然を活かした環境教育の影響は,単に,描画における自然物の有無として現われるだけではなく,運動コントロール能力や認識力の発達を通じて,描線の確かさや基底線の有無として現れることが示唆された。たとえば,環境教育の一環として,豊富な自然環境を活かした保育を実践する園に所属する幼児の描画は,筆圧が強く、描線もていねいであった。また,基底線は,“地面の上に立っている自分”という身体感覚があってはじめて出現するのであり,この基底線の出現が,描画内の物と物との秩序付け(描画の構成)などの認識力の高まりに関わることが指摘されてきたが,環境教育実践園の描画においては基底線の出現率が高い傾向にあった。 以上のように,本研究の結果は,自然を活かした環境教育が,子どもの心身の発達に多大な影響を与えることを示唆するものであった。今後は、環境教育およびその教授法の分類基準を明確化し,その分類とS-HTP描画との関連を詳細に見ていくことで,幼児期における環境教育の在り方について検討を深めていきたい。
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