学校教育と就労は理念や目的において単純に直結せず、環境に大きな相違がある。学校教育では教えないこと、問われないこと、保護されていることが、就労においては必須の能力(就業能力)となる。例えば、エラーやミスの検出(製品の品質・責任)、作業効率(企業収益)、プランニング・マルチタスク(作業マネジメント)、チームワーク・対人コミュニケーション能力(組織活動)などである。このような就業能力について、定型発達児は教わらなくても自然と身に付けるが、発達障害児・者は就業能力について敢えてトレーニングする必要があり、また努力しても身に着かないこともある。そこで就業能力をアセスメントすることが必要になり、そのためには学校教育と就労で共通して利用される心理検査が必要になる。学校教育と就労では利用される心理検査にも大きな相違があるが、知能指数(IQ)の情報は障害支援のどのような分野でも必須であり、IQを測定する知能検査として最も広く利用されているのがウェクスラー式知能検査(WAIS)である。つまりWAIS知能検査は学校教育と就労に共通の心理検査である。学校における特別支援教育ではWAIS知能検査は主要な心理検査の1つであり、下位検査得点によるプロフィール分析の手続きや分析シートがすでに開発されている。しかし就労(労働)の分野では、WAIS知能検査がIQ情報以外に活用されることはほとんどみられない。そこで本年度は、学校教育と就労に共通の心理検査であるWAIS-III知能検査の検査結果に基づき、就業能力を分析・評価するための解釈フォーマット(分析シート)を作成した。この分析シートを活用することにより、学校における特別支援教育の支援資産をキャリア教育や就労移行支援において継承・活用することが可能となり、キャリア教育の理念を実現するための目標が具体化され、キャリア教育の推進力として貢献することが期待される。
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