研究概要 |
愛着理論を心理援助に活用するさまざまな試みがなされているが、幼少期からの個人内における愛着の連続性だけでなく、辛い被養育体験を持ちながらも安定した愛着を持つ人、すなわち「獲得された安定型」の特徴に着目する必要がある。 本研究の第一の目的として、AAI(Adult attachment interview; Main et al., 1984)による語りより、操作的定義により継続安定型と獲得安定型、不安定型に分類した上で、信頼性および妥当性について確認する。また、AAIより養育者以外の重要な他者に関する語りを抽出して代理対象の有無について評定を行う。第二の目的として、母親の内的ワーキングモデルと過去の代理対象の存在、現在の夫婦関係およびソーシャルサポート数との関連に着目し、母親自身の抑うつ傾向や子どもへの愛情に及ぼす影響について検討を行う。 対象は妊婦135名であり、妊娠期に質問紙・面接調査、産褥期において質問紙調査を実施した。結果として、不安定型は産前産後一貫して抑うつ傾向が高かったものの、獲得安定型と継続安定型との差異はみとめられなかった。獲得安定型の特徴として、幼少時に祖父母と同居・近接の割合は他の型より高いものの、代理対象の割合は継続安定型より少ない傾向にあった。また、獲得安定型では代理対象が存在した場合に、存在しない場合よりも出産後の子どもへの愛情が高くなることが示された。産褥期の子どもへの愛情を目的変数とする重回帰分析より、胎児期からの愛情、良好な夫婦関係や代理対象の存在、母親の抑うつが強く関連していた。考察として、子どもへの愛情に対して代理対象の存在や夫婦関係が直接関与し、それらを媒介して内的ワーキングモデルが影響を及ぼすことがうかがわれた。
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