大うつ病性障害(MOD)の治療において対人過敏性は、治療関係維持や治療効果に対して大きな影響を与えていることが示唆されており、重要な観点である。本研究は、MODの認知行動療法(CBT)において、対人過敏性を含めた治療場面に介入を加えた群と、通常CBT介入群との治療効果の比較検討(目的1)と、対人過敏性の重症度が、抑うつ症状の重症度や改善度にどのような影響を与えているのかの検討(目的2)を行った。2009年9月より浜松医科大学医学部附属病院精神神経科外来にて、CBT外来を開設した。MDDの診断でCBT適用となり、本研究の同意を得られた患者14名を分析対象とした。薬物療法については、主治医の臨床上の判断に従った。 結果、通常のCBT介入を行った群(10名)と治療場面に対する介入を加えたCBTを行った群(4名)共に、抑うつ症状は治療前後で有意に改善していた。しかし、介入間での改善度に有意な差は認められなかった。また、治療前後で対人過敏性の値が改善した群(過敏性改善群5名)と変化しなかった群(過敏性不変群5名)に分け、治療前後における抑うつ症状の程度を比較検討した結果、両群共に抑うつ症状は有意に改善していた。しかし、過敏性不変群は、客観的評価において、抑うつ症状がより重度であることが示きれた。今回の結果では、治療前のMDD患者全てが、対人過敏性や社会的回避を有しており、抑うつ症状の改善と共に対人過敏性が改善する患者とそうでない患者が存在した。これは、抑うつの症状としての対人過敏性とパーソナリティ傾向としての対人過敏性の差であった可能性が考えられる。しかし、どちらの場合にもCBTと薬物療法の併用は抑うつ症状の改善に対して効果的であった。また、治療場面に対する介入は、治療中断の危機や治療停滞が生じている場面で用いられており、これらの局面には効果的な介入であると考えられた。
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