研究概要 |
幼児期の多動・不注意,攻撃・妨害行動は,就学後の学校不適応を招くだけではなく,仲間関係の構築を妨げるリスク要因でもある。これまで,問題行動の生起要因として社会的スキルの不足が指摘されており,社会的スキル訓練による問題行動の低減効果が検討されてきたが,一貫した結果は得られていない(岡村ら,2006)。近年,海外においては,問題行動を示す幼児は,社会的スキルの知識はあるものの,それを実行することができないという実行欠如の問題が指摘され,その要因として,不適切な行動の抑制や,思考を切り替える柔軟性及び情報処理に関わるワーキングメモリーなどの実行機能の不全が挙げられている(Barkley, 2000)。近年,ADHD幼児の実行機能がADHD症状に及ぼす影響を検討した研究(Brocki, et al., 2009)や幼児の実行機能と社会的スキル及び問題行動(外面化行動・内面化行動)との関連を検討した研究(Rhoades, et al., 2009)が行われている。これらの研究では,実行機能と社会的スキル及び問題行動とのそれぞれの相関関係が検討されているものの,実行機能と社会的スキルが関わって問題行動が生起するといった生起プロセスに関する研究は行われていない。問題行動の生起プロセスが明らかにされることにより問題行動を予防するプログラムの開発が期待される。本年度は,実行機能と社会的スキル及び問題行動の関連について検討された。実行機能の評価のために葛藤抑制課題,認知的柔軟性課題,ワーキングメモリー課題の3つが実施された。社会的スキルと問題行動は,教師評定及び行動観察によって評価された。これらの変数の関連を検討した結果,実行機能と社会的スキル及び問題行動に関連が認められた。今後は得られた調査データの詳細な統計的分析及び研究成果の発表を行う予定である。
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