研究概要 |
近年,怒りの維持が,対人関係や心身の健康状態に様々な形で悪影響を及ぼすとの指摘がされている。しかしながら,怒りの維持を制御させるための臨床的介入方法に関する検討は不十分である。したがって,本研究では怒りの維持過程を解明し,その維持に基づいた臨床的介入方法を検討する。 年度は,主に怒りの維持過程を解明することに重点を置いた。怒りの維持をもたらす個人内過程である認知・行動の媒介的役割を明らかにした上で,状況要因・特性要因との関連性も検討した。 東北および関東在住の大学生を対象に,「最近1カ月以内に感じた怒りの感情について」自由記述を求め,その出来事についてどのように受け止めているかについて尋ねた。記述した出来事に対する感情状態,思考の未統合感,反復思考,回避行動,特性(アレキシサイミア傾向),状況要因について評定するよう求めた。 分析の結果,思考の未統合感および反復思考は怒りの維持と関連していた。本研究における思考の未統合感とは,怒りを感じた過去の出来事に関して整理・受容できない状態を表すが,この思考の未統合感が生じることで,反復思考が生起し,それによって過去に経験した怒りが維持されることが示された。また,思考の未統合感は,回避行動を促進しやすいことも確認された。そして,この回避行動は,反復思考へと結びつき,結果的に怒りの維持へとつながることが明らかとなった。ここから,怒りの維持をもたらしているのは思考の未統合感であると判断できる。加えて,アレキシサイミア特性および怒りの出来事直後の怒りの強度は,思考の未統合感を強めることも示唆された。
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