研究概要 |
近年、怒りの維持の制御に関する検討は不十分な状況にある。本研究では、怒りの維持を制御するための方法の一つとして筆記開示法を用いた。これまでの先行研究では、日常生活における怒りエピソードについて筆記開示を行った結果、ネガティブな反すう傾向が減じる傾向にあり(荒井他,2006)、維持していた怒りが低減した(遠藤,2009)ことがそれぞれの研究で示されている。しかしながら、筆記開示によって怒りや反すうがどのような過程で低減したかについては明らかになっていない。怒りの制御に筆記開示が有効に作用していることを示すためには、怒りの維持過程そのものを解明する必要がある。そこで、遠藤・湯川(2010;2011)は、大学生を対象に調査を実施し、思考の未統合感が認知(反復思考)や行動(回避行動)を媒介して怒りを維持させている個人内過程を示し、さらには、思考の未統合感に影響を及ぼす要因として、感情強度(怒りの強度)、出来事を構成する状況(怒り対象との関係性)や特性(アレキシサイミア)も関連していたことが示唆された。 本研究では、こうした維持過程を基盤にして、筆記開示法が思考の未統合感、反復思考、回避行動、怒りの維持を低減させるか否かについて検討した。学生24名を対象とし、「怒りの維持過程の基づき、思考の統合を促す怒り構造化群」「怒り経験とは関連のない中性刺激の写真について筆記開示する群(統制群)」の2つの群に分けた。 群(怒り構造化群・統制群)と測定時期(実験1週間後・2週間後)の2要因混合計画に基づく分散分析を行ったところ、思考の未統合感および怒りの維持においては、交互作用が認められた。すなわち、統制群に比べ、怒り構造化群は、思考の未統合感および怒りの維持の変数においてを低減させることが示された。ここから、怒りの維持過程に基づいた、思考の統合を促す筆記開示が最も効果的であることが明らかにされた。
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