昨年度の研究では、怒りの維持プロセスに基づいた怒りの維持を制御するための効果的な方法として、構造化筆記開示法を開発し、その効果も認められた。ただし、こうした構造化筆記開示法のメカニズムを明確にしていくためには、怒りの維持プロセスの頑健性を示すことが必要である。そこで本年度は、縦断調査を用いた怒りの維持プロセスを検討した。 関東・東北圏内の国立大学と私立大学の大学生を対象に246名の回答を得た。1週間の間隔を置き、2回(Time1およびTime2)の質問紙調査を行った。 はじめに、最近1ヵ月以内に感じた怒りの感情について尋ねた(Time1)。具体的には、不愉快にさせられたり非難されたり腹が立ったりなど、最も強く怒りを感じた出来事について、1つ思い出すよう求めた。なお、怒りを感じた相手は、日々の生活の中で繰り返し会う可能性のある人に限定するよう教示した。その際、その出来事が起こった時期についてできるだけ詳しく回答を求め、次に、その出来事に対する思考の未統合感、反復思考、回避行動、怒りの維持について尋ねた。1週間後のTime2では、Time1で記述した内容について想起をさせた後、思考の未統合感等に関わる質問紙に回答を求めた。 その結果、Time1における思考の未統合感(1)が反復思考(1)を促し、それが思考の未統合感(2)を強め怒りの維持に至るプロセス、そして、思考の未統合感(1)が回避行動(1)をもたらし、反復思考(1)を増加させるプロセスが示された。また、Time1の思考の未統合感(2)がTime2の回避行動(2)および反復思考(2)の増加をもたらし、それがTime2の思考の未統合感(3)を強めていた。また、Time1の思考の未統合感(2)はTime2の思考の未統合感(3)そのものも強めることも示された。よって、思考の未統合感を中心に怒りが維持される過程の頑健性が確認された。
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