1.研究目的 刺激に影響されやすいことが一方で精神病理に、一方で創造的な活動に結びつくのはなぜか、「心的境界」の観点から明らかにすることが本研究の目的である。本年度は、心的境界を測定する質問紙「日本版境界尺度」を臨床群と芸術家群に施行し一般の健常群と比較することで、各々の心的境界の構造について量的に検討した。 2.研究方法 健常群として一般大学生460名、臨床群として精神科外来に通院している患者52名(統合失調症31名、鬱病21名)、芸術家群として大学の芸術学部に通う学生99名(美術専攻21名、デザイン専攻59名、写真専攻19名)を調査対象とし、日本版境界尺度を施行した。その後、日本版境界尺度に含まれる各因子得点についてSPSSを用いた分散分析による各群の比較検討を行った。なお臨床群については調査実施に関する通常の倫理的配慮に加え、主治医と現在の病状を検討後、調査参加可能と判断された者を選定し、希望があれば調査終了後に主治医と相談の上、個別に結果を報告するなど特別な配慮を行った。 3.研究成果 (1)臨床群の心的境界の特徴:統合失調症の患者は、よりものの考え方などは白黒はっきり区別したがるが目に見えて意識的に確認できる境界を排除しようし、大人と子どもの感性の連続性を大切にすることが示された。さらに自分を超えて自分の存在や意識の境界が広がる傾向がみられた。一方鬱病の患者は、より目に見えて意識的に確認できる境界を排除しようし整理整頓にこだわる特徴が示された。 (2)芸術家群の心的境界の特徴:芸術家群は、より自分を守る境界が侵入的に脅かされる感覚を携えていることが示され、心的境界全般において刺激に影響されやすい傾向がみられた。なお、専攻別の比較においては統計的に有意な差がみられなかった。
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