1.研究目的 刺激に影響されやすいことが一方で精神病理に、一方で創造的な活動に結びつくのはなぜか、「心的境界」の側面から明らかにすることが本研究の目的である。本年度は、芸術家にインタビュー調査と心理検査を行うことで、創造的な活動に心的境界がどのように関係しているのか質的に検討した。 2.研究方法 国内で活躍している芸術家を調査対象とし、インタビューと心理検査を行った。インタビューは半構造化面接で行われ、発話内容を創造的な活動と心的境界との関連を中心にまとめ分析した。心理検査ではロールシャッハ・テストを施行し、片口法にてスコアリングを行った。 3.研究成果、 創造的な活動と心的境界との関連が考えられることとして、インタビューからは、(1)夢や実際の生活場面で体験したことに影響を受けやすい、(2)作品制作にはひらめきと綿密なリサーチおよび校正の繰り返しが必要、(3)自分の中にさまざまな感情があることを認識しつつそれらが共存することに対し寛容、(4)実生活の中で体験しながら同時にそれを客観視している、(5)自分の感情体験を他の何かに置き換えることで表現している、(6)創作活動は孤独な作業だがそれを社会に出すことで閉ざされた世界から現実的な世界へと出て行くことができる、(7)曖昧なものを曖昧なものとして置いておける、(8)作品が社会に出ることで自分の感覚や価値観が携える罪悪感や孤立感が解放される、などが見られた。心理検査からは、観念活動が活発で想像力に富み、繊細な感受性や内省力・表現力を携えていること、自分自身への関心が高い、などの特徴が見られた。
|