研究概要 |
【問題】セルフスティグマの精神疾患回復過程における悪影響について実証的な研究が積み重ねられている。近年では、セルフスティグマと認知の偏りとの関連が指摘されている。本研究では、うつ症状を呈する患者を対象にして、症状および自尊感情にセルフスティグマと認知の偏りが及ぼす影響について検討する。 【方法】研究に関して説明し、文書での同意が得られた通院中の患者を調査対象とした。分析を行った110名(男性54名、女性56名)の平均年齢は、45.65(SD=12.68)歳。ICD-10による主診断は、気分障害83名、不安障害17名、適応障害5名、その他5名であった。調査尺度は、(1) DAS-24-J日本語版(下位尺度は、“達成動機”、“セルフコントロール”、“他者依存”) 、(2) Linkスティグマ尺度、(3)CES-D、(4) 自尊感情尺度を実施した。 【結果】性別、年齢、DAS-24-J得点、Linkスティグマ尺度得点を説明変数とし、CES-D得点を目的変数として階層的重回帰分析を行った。その結果、性別(β=.23, p<.05)、達成動機(β=.31, p<.10)、セルフスティグマ(β=.26, p<.01)の影響が有意あるいは有意傾向であった(R2=.29, p<.01)。同様に、自尊感情得点を目的変数として階層的重回帰分析を行った結果、年齢(β=.18, p<.05)、セルフスティグマ(β=-.39, p<.001)の影響が有意であった(R2=.38, p<.001)。 【考察】うつ症状、自尊感情双方に対してセルフスティグマの影響が確認された。うつ症状に対する認知の偏りの影響は認められたが、自尊感情に対しては影響が認められなかった。患者の自尊感情の回復を目指した介入に取り組む際には、通常の認知の修正に加えてセルフスティグマに焦点を当てたアプローチの必要性が示唆された。
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