研究概要 |
本年度は,人間の読解メカニズムに基づいた速読トレーニングの開発に向け,大きく分けて次の2つの研究を実施した。 第1は,速読のメカニズムを明確にするための研究の1つである,視野拡大トレーニングの効果の検証であった。先行研究で効果のあった速読トレーニングには,"眼を動かす""視野拡大""文章を読む"の3種類のトレーニングが含まれていた。そこで,視野拡大トレーニング単独での効果を検討したところ,1週間の視野拡大トレーニングを行うことで,文章を読む速度が1.3倍に上昇するという効果が得られた。 これは,3種類のトレーニングを実施した先行研究と同様の効果である。すなわち,視野を拡大させることが速読に結びつくことが明らかになった。また,研究の主目的ではなかったが,書籍等で紹介されているような,速読との関連が不明瞭なトレーニングを実施する統制トレーニング群を設け,その効果を検証した。3週間のトレーニングの結果,何もトレーニングを行わない統制群と同様に,読み速度は上昇しないことが明らかになった。この実験により,科学的根拠のある速読トレーニングの開発に向けて,視野拡大トレーニングの単独での効果を実証することができ,科学的根拠の不明瞭なトレーニングの効果を否定することができた。 第2は,速読トレーニングの効果とコストに対するニーズの把握である。本年度は大学生に質問紙調査を実施し,速読トレーニングの効果として期待するのは"2-3倍"程度の読み速度の上昇であること,期待の大きさと速読への不信感の低さに関連があることを明らかにした。
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