研究概要 |
本年度は,人間の読解メカニズムに基づいた速読トレーニングの開発に向け,大きく分けて次の3つの研究を実施した。 第1に,視野拡大トレーニングの効果を検証する研究を行った。これまでに,著者は視野拡大トレーニングをH22年度に作成し,その効果は確認している。ただし,トレーニングの中に2つのタイプのトレーニングが混在していたため,いずれが最も効率的に読み速度の上昇をもたらすかが不明であった。そこで2タイプのトレーニングを別々に実施し,それぞれの効果の確認を行った。複数の単語を一度に読みとる単語認知トレーニングと文章を読む際の視点のとり方を訓練する視点矯正トレーニングを行ったところ,いずれのトレーニングでも同程度の効果が得られることがわかった。いずれのトレーニングによっても,H22年度に行った混在型のトレーニングと同程度の効果が得られた。 第2に,上のトレーニングによって実際に視野が拡大するか否かを検証する研究を行った。特に視点を動かさずに読みとることのできる文字範囲すなわちvisual spanの測定を実施した。上の2つのタイプのトレーニング前後にvisual spanを測定したところ,実際に視野の拡大効果があったことがわかった。Visual spanが拡大し,中心視野から離れた位置の文字を読みとれるようになった場合に,読み速度の上昇が大きいことも確認された。特に単語認知トレーニングにおいて視点矯正トレーニングよりも左視野でのvisual spanの拡大が大きかった。 第3に,音韻変換トレーニングの効果の検討を行った。音韻変換に関するトレーニングは全く行われていないため,探索的に2つの方法を用い,内語を抑制できるか,それによって読み速度が上昇するかを調べた。用いた方法は,内語を行わないように意識しながら読むよう教示するという教示法と,無関連音声を聞きながら読んでもらう無関連音声法であった。実験の結果,教示法によってわずかに読み速度が上昇するという効果が得られた。
|