研究課題
本研究では、まず、海馬関連ネットワークの記憶機能と機能分化に内側中隔/垂直対角帯(MS/vDB)とマイネルト基底核(nBM)由来のコリン作動性入力がどのように関わっているのかという、ネットワークと機能分化の検討を行う(機能分化的メカニズムの研究)。加えて、コリン作動性入力の遮断による海馬関連ネットワーク内のアストロサイトや神経細胞の変性が、ネットワーク全体の崩壊と記憶障害を引き起こすメカニズムを経時的に検討する(時系列的メカニズムの研究)、とともに、記憶の種類と担当するネットワークによってそのメカニズムが違うのかどうかを検討する(両研究の統合)。本年度は、海馬関連ネットワークの空間参照記憶・空間作業記憶機能におけるMS/vDBとnBMのコリン作動性入力の役割の違いに加え、MS/vDBとnBMのコリン作動性神経細胞損傷による記憶障害に対するコリンエステラーゼ阻害剤の投与効果を詳細に調べた。イムノトキシン細胞標的法によって、MS/vDBコリン作動性ニューロン損傷マウスとnBMコリン作動性ニューロン損傷マウスを作成し、オープンフィールド課題、空間参照記憶課題、空間作業記憶課題を用いて、行動におけるその損傷効果を調べた。MS/vDB損傷マウスは空間参照記憶課題、nBM損傷マウスは空間作業記憶課題において記憶種特異的な記憶障害を示した。損傷後の経過日数(10日/20日/30日)によっても、MS/vDB損傷マウスは空間参照記憶障害に違いがなかった。また、これら領域特異的な記憶障害は、コリンエステラーゼ阻害剤の投与によって回復した。また、組織学的検討では、損傷後(10日/20日/30目)、コリン作動性細胞数、GFPA陽性細胞数、S100B陽性細胞数、lba1陽性細胞数が損傷後経過日数にかかわらず減少した。さらに、課題中の行動分析より、コリン作動性ニューロン損傷や損傷動物に対してコリンエステラーゼ阻害剤投与によって動物の情動性に変化が起こることが示唆されたため、新しく、情動課題である高架式十字迷路課題やresident-intruder課題を計画し、準備している。コリン作動性ニューロン損傷による海馬関連ネットワークの組織学的変容に関してもさらに解析を行っているところである.
2: おおむね順調に進展している
ひとつめとふたつめの研究目的である機能分化的メカニズムの研究およびその時系列的メカニズムに取り組んだところであり、一定の実験解析によって目的を果たす見込みである。
コリン作動性神経細胞損傷によるアルツハイマー病モデルマウスの記憶障害に関してはほぼ明らかになったので、それに伴う海馬ネットワークの組織学的な変容や、アルツハイマー病記憶障害の周辺症状としてあらわれる情動症状等に関しても検討を進め、コリン作動性投射が海馬関連ネットワークに果たす役割を包括的に考察する。
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Eur J Neurosci
巻: 35 ページ: 784-797
doi:10.1111/j.1460-9668.2012.08005.x
J Neurosci
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