研究概要 |
視覚系において,運動情報処理に関する神経基盤の知見が比較的蓄積されているのは網膜である。網膜には運動方向選択性神経節細胞が存在することが明らかになっており,視運動性反応に大きく貢献していることが示唆されている。したがって,刺激に対する網膜神経節細胞の出力と視運動性反応との対応関係を調べることで,視覚系による運動情報処理のメカニズムを解明することが期待できる。そこで,脊椎動物のモデル動物として有用性が高いゼブラフィッシュを被験体とし,矩形波格子縞刺激に対する視運動性反応の特性を調べた。まず,ゼブラフィッシュを環状の水槽に入れて4つの液晶モニタによって口の字型に囲み,矩形波格子縞が一定の速さで水平方向に運動する刺激を単眼呈示した。運動刺激の呈示に対し,ゼブラフィッシュは刺激に対して追従する方向に泳いだ(optomotor response)。次に,刺激の空間周波数を変化させ,optomotor responseの空間周波数依存性を詳細に明らかにした。さらに,運動刺激呈示後の行動を観察したところ,あたかもそれまで呈示していた刺激の運動方向とは逆方向の運動刺激が呈示されているかのような反転反応が観察された。また,この行動の反応潜時は運動刺激の呈示時間を長くすると短くなった。したがって,optomotor responseにおいて運動刺激に対する運動残効が存在していることが強く示唆された。今後,同様の刺激を剥離網膜に呈示し,電気生理学的に網膜神経節細胞の活動を記録することで,網膜神経節細胞の出力とoptomotor response及びその運動残効の特性とを比較することが可能となった。
|