研究概要 |
平成23年度は選好注視法を用いて,特に重症度が高くコミュニケーションが著しく困難な認知症患者を対象にその残存機能について検討を行った. 今回対象としたのは70代の女性で,前頭側頭葉変性症fronto-temporal lobar degeneration : FTLDによって,前頭側頭葉が著明に萎縮し,それとともに言語能力と自発性が重度に障害された患者で,FAST functional assessment stagingやCDR clinical dementia ratingでは最も重度に分類される状態であった.しかし家族からは,意識は保たれ,顔の認知場面などで視覚認知能力も機能しているのではないかという主観的な報告がなされたことから,この点を客観的に確認するため,この患者に対し,未知の顔写真を用いて直前に提示した顔(既知顔)と未知の顔(未知顔)を対提示し,その時の眼球運動の計測を行った.その結果,サイドバイアス(一方向にへの注視の偏り)が認められたため,選好注視による分析では,既知顔と未知顔のあいだに有意な差は確認することができなかったが,ファーストルック(最初に視線を動かすこと)に対する潜時で明らかな差が認められ,既知顔と未知顔を見分けていることが確認された. 次に,介護者の顔と未知の顔を見分けることができるか否か検討するために,同性・同年齢の顔写真を撮影し,刺激作成の準備を行ったところである.
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