研究課題
申請者は、C57BL/6Nマウスを被験体とする水迷路学習実験の場面において、課題の難度をある一定の水準以上に設定すると、一部の被験体が、適応的対処行動の学習を徐々に放棄し、遂には行動的絶望状態に陥ることを発見した。申請者は、これらの個体をLoser、対して、良好な学習を示す個体をWinnerと命名した。Loserの行動的絶望状態と脳内に誘発された変異との関連について検討したところ、Loserでは、海馬歯状回における神経細胞新生がWinnerと比較して顕著に抑制されていた。更に、うつ病のバイオマーカーとしての可能性が指摘されている血中サイトカインを測定したところ、Loserは、IL-1βやTNF-α等でWinnerより有意に高い値を示した。これらの結果は、Loserのうつ動物モデルとしての妥当性を補強するものである。また、これまでの研究で、LoserはSSRIを含むいくつかの抗うつ薬に明確な感受性を持つことが確認されている。但し、これまでは、水迷路学習訓練の直前に抗うつ薬を投与し、急性的な薬理作用の行動面への表出について検討したのみであった。そこで、本研究では、LoserにSSRIのひとつであるフルボキサミン(25mg/kg)を8日間連続してホームケージ内で投与した後に水迷路学習訓練を再開し、同薬物によって永続性のある治療効果が得られるか否かを検討した。その結果、急性的な薬理作用が混入しない条件下で実施する水迷路学習訓練では適応的対処行動の何復が観察されず、海馬歯状回における神経細胞新生の抑制も殆ど改善していなかった。この結果は、Loserの行動的絶望状態の頑健さ(健常性の回復の困難さ)を裏づけるものであり、海馬歯状回における神経細胞新生の抑制がその主たる背景要因であることを示唆している。
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Genes and Environment
巻: 33 ページ: 81-88
https://www.jstage.jst.go.jp/browse/jemsge/33/3/_contents/-char/ja/