本研究の目的は、脳波の位相同期性解析を用いて、注意の制御様式を評価する手法を確立することであった。高γ帯域位相同期がボトムアップ注意制御を、低γ帯域位相同期がトップダウン注意制御を反映しているという仮説を検証するため、昨年度までに行ったストップシグナル課題、注意の瞬き課題、先行手がかり課題、フランカー課題に加えて、本年度は条件付き注意捕捉課題、次元加重課題などのデータを収集した。その結果、条件付き注意捕捉課題では、標的と妨害刺激が同じ特徴を有している場合に標的提示後200-300 ms×22-34 Hzの位相同期性が、標的と妨害刺激の特徴が一致しない場合に100-200 ms×40-50 Hzの位相同期性が増強されることが明らかになった。また、次元加重課題では、標的の定義次元が予め知らされている場合に刺激提示後0-100 ms×22-34 Hzの位相同期性が増強されることが明らかになった。これらの結果は低γ帯域位相同期がトップダウン注意制御を高γ帯域位相同期がボトムアップ注意制御を反映しているという仮説を支持している。 これまでにトップダウン注意制御と関連して増強が認められた低γ帯域の位相同期についてグラフ理論に基づいたネットワークの解析を行った結果、注意制御様式によってネットワーク構造が系統的に変化しているという証拠は得られなかった。 昨年度までに行ったニューラルマスモデルを拡張して、3つの脳部位間の情報伝達を仮定した場合のシミュレーションを行い、脳部位間の位相同期性を検討した。その結果、時間遅れを考慮した解析を行った場合でも接続様式によって同期性のパタンが非線形的に変化することが示された。このことは、3つ以上の部位が相互関係をもつと想定される認知課題では位相同期性による情報伝達量の評価が難しいことを示している。
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