研究概要 |
本年度は、まず、「霊操」を分析枠組みとし、ストア派の思想を参照枠としてルソーの教育思想を再読するという、前年度までの研究をさらに発展させた。ルソーが自らの教育思想を論じた著作『エミール』に挿入されている「サヴォワ助任司祭の信仰告白」(以下「信仰告白」と略記)というテキストに注目し、従来ルソーの認識論として読まれてきたこのテキストを、P.アドやM,フーコーが自らの西洋思想史分析の視点とした「霊操」という自己実践の書として再読した。とりわけ、「霊操」の要の一つである「パレーシア(本当のことを語ること)」の書として『エミール』を読み直し、先行研究の重要な論点である『エミール』における「信仰告白」の位置づけの問題を再検証した。その結果、「信仰告白」は『エミール』の言説の真理性を担保するために挿入されたテキストであることを明らかにし、教育学領域における先行研究が『エミール』におけるその位置づけの問題を不問にしたまま「信仰告白」を『エミール』の教育論・教育方法論の単なる一つの展開として解釈してきたことの問題性を浮き彫りにすることができた。 さらに、以上の研究をより発展させるために、ペトラルカの自己形成論という参照枠を新たに加えるべく準備作業を行なった。具体的には、(1)『ルソー書簡全集』から、ペトラルカへの言及箇所の抽出・解読し、(2)ペトラルカに関わる研究文献、および、ルソーとペトラルカの影響研究に関わる研究文献の収集を行なった。これらの文献の本格的な解読は平成23年度の課題となるが、以上の本年度の作業によって、ルソーの教育思想をペトラルカを始祖とする「ヒューマニズム」の思想史的文脈の中で再読し得る点が明らかになった。
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