今年度は、埼玉県北埼玉郡不動岡村(現加須市不動岡地区)を事例として、大正・昭和戦前期農村における旧制中学校と小学校の連携に着目し、そこで展開された郷土教育の実践を分析した。同村には、農村に位置した全国的最も古い旧制中学校の1つである不動岡中学校が存在した。不動岡小学校も、不動岡中学校と距離的にも近く、密接な関係を持っていた。こうした理由から、旧制中学校と小学校の連携を検討する事例として取り上げた。 農村の郷土教育を国家の教化政策、あるいは郷土教育連盟理論の受容対象と捉えられてきた従来の研究に対し、農村の旧制中学校では、「農村幹部」養成に力点を置き、地域小学校と連携しながら人材育成を行っていたことが、旧制不動岡中学校の郷土教育を検討することにより明らかになった。旧制中学校では、中等教育的機関(実業補習学校等)・小学校における郷土教育とは異なり、「農村幹部」養成に1つの特徴があった。戦前の複線型教育制度のもとで旧制中学校は、旧制高校・旧帝国大学へと進学可能なエリート養成コースと先行研究においてとらえられてきた。しかし、農村の旧制中学校は早くから農業に関する実業教育を施していた不動岡中学校の事例に見られるように、地域社会の課題に焦点をあてた教育実践を行っていた。こうした研究成果から、先行研究で論じられてきたエリート養成的役割とは異なる農村旧制中学校の人材育成に関する取り組みを明らかにした。
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