本研究は遊び場面における幼児の自発的な歌唱行為がもつ機能について明らかにしようとするものである。幼稚園および保育所において行った観察調査により、幼児の自発的な歌唱行為の事例データを収集し、遊びの形態により分類し、それぞれの事例において歌が果たした機能について分析した。大分類として共同遊びと一人遊び場面に分類し、本年度はさらに共同遊びの中の「ごっこ遊びにおける歌」に特に焦点をあて、分析を行った。その結果、幼児の遊び場面における歌唱行為の特徴として以下の三点を指摘した。 (1)ある歌を子どもが共通に知っていることで,その歌の歌詞内容やそこに含まれる状況設定が子ども達全員に共有される。その歌は子ども達の中に蓄積され,場面に応じてさまざまな遊びの中で引用される。(2)歌は一節のみを歌うことでも容易にその全貌が全員に共有され,理解される。 (3)引用された歌の内容や状況設定は,そのまま遊びに取り入れられることもあれば,遊びの展開が変わる契機となるだけのこともある。 また、ごっこ遊びにおいて歌の果たす機能として以下の点を指摘した。 (1)遊びにおける子ども同士の人間関係や力関係を変化させる。(2)却下された遊びのアイディアが歌によって受け入れられる。(3)遊びにより具体的なイメージを付与し,ごっこ遊びの役柄や状況設定を変化させる。(4)何らかの制約により遊びが停滞しそうな状況を打破する。(5)新たな子どもが遊びに参入する際,受け入れられるきっかけを作る。
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