研究課題/領域番号 |
22730617
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研究機関 | 京都教育大学 |
研究代表者 |
樋口 とみ子 京都教育大学, 教育学部, 准教授 (80402981)
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キーワード | リテラシー / 学力論 / 教育学 |
研究概要 |
本研究では、学校教育を通して子どもたちに育成したい「学力」のあり方について、近年注目を集めている「リテラシー」概念に焦点をあてて考察することをめざしている。とりわけ、従来ともすると個別に検討される傾向にあったリテラシーの機能的側面(既存社会への効果的な適応)と批判的側面(既存社会の変革)の統合のされ方について、「歴史的な視点」と「現代的な比較の視点」を用いて明らかにすることを目的としている。 今年度は、3年計画の中間にあたる年度として、「歴史的な視点」の展開をユネスコのリテラシー論に即してまとめた。ユネスコは、1946年の創設以降、発展途上国を中心にしたリテラシー教育の普及に取り組んできたことで知られている。そのユネスコが、1950年代に機能的リテラシー論を採用した後、70年代にはP.フレイレの批判的リテラシー論を受容する過程を検討した。さらに、90年代以降には「基礎的な学習ニーズ」という考え方を取り入れるとともに、2003年から始まった「国連リテラシーの10年」においては、「複数形のリテラシーズ」という考え方をもとに「自由としてのリテラシー」という発想を提起していることを、具体的なカリキュラム開発の実践と関連づけて明らかにした。「自由としてのリテラシー」とは、経済学者A.センの提起した「自由としての開発」に基づくものである。こうしたユネスコの主張においては、リテラシーの機能的側面と批判的側面が有機的に統合される可能性のあることを、その推奨する具体的な教育実践を分析することにより浮き彫りとすることができた。単に理念を提唱するのみならず、ユネスコはその具体的な実現方法を示唆していることが明らかになった。また、リテラシーを評価する方法についても検討し、近年注目を浴びつつあるパフォーマンス評価における位置づけを考察した。 さらに、「現代的な比較の視点」として、1980年代以降のイギリスにおいて台頭している「状況に根ざしたリテラシー」論の文献・論文を収集した。とりわけ、代表的な論者であるD.バートンやM.ハミルトン、B.V.ストリートらの著作に着目して、検討を進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3年計画のうち、今年度はユネスコにおけるリテラシー概念の史的展開を検討することが主な課題であった。1946年の創設当初から、ユネスコのリテラシー概念の展開を追うとともに、とくに1990年代以降の動向を、具体的なカリキュラム開発のあり方と照らし合わせながら明らかにすることができたため、おおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
今後については、国際機関であるユネスコとOECDのリテラシー観の違いをより鮮明にしていく必要がある。両者はともにリテラシーという言葉を用いて調査・研究を行ってきているものの、そこに相違点があるとすればどのような点なのかについて、具体的な調査問題などをもとに明らかにしたい。この作業とともに、昨年度までの検討を踏まえて、リテラシー概念の史的展開をまとめたい。 また、「現代的な比較の視点」として、イギリスにおいて台頭している「状況に根ざしたリテラシー」論の特徴を検討することも課題とする。すでに昨年度までに、代表的な論者の著作・論文を収集した。そこで、今後はそれらの文献を丁寧に読み解き、「状況に根ざしたリテラシー」論がどのような背景で提起されているのかを明らかにする。とりわけ、状況や文脈を重視する発想は近年のユネスコやOECDにも散見されるため、それらとの異同について検討していきたい。
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