本助成による九州各県の資料調査に基づき、尋常中学校再編の状況と尋常中学校に対する地域での評価、尋常中学校の教育の実態、第五高等中学校との接続関係などが、断片的とはいえ明らかとなってきた。中学校令の存在は、県会での議論を通じて県立尋常中学校を地域のモデル校として強化するべく選択と集中を図る方向に舵を切らせる契機となっていた。集中すべきは中学生の学力の底上げであり、その前提は英語を中心とする語学力であることが明確となり、さらに第二外国語(ドイツ語)を設けることは更に高等中学校への接続の捷径を開いた。そしてその目的は地域の人材を落第により停滞させたり中央の私学を経由させて時日を虚しくさせることなく上級学校へ進ませ、有為な人材とすることであった。特に第五区域の場合には、他の区域と異なり、九州各県は中学校令下の中等教育について、森文政下に示された構想に共鳴し、制度の枠内で最大限九州に有意義な中等教育改革を志していたことが推察できるということも大きな収穫である。 本研究では生徒の進学ルートの確定過程には国家の教育政策的意図と地域の教育需要との相互作用が大きく働いていたとの仮説のもと、高等中学校の実態を手がかりにその確定のメカニズムを明らかにしようと取り組んだ。第五高等中学校と九州各県尋常中学校との接続関係に関する直接的な資料が限られており、また資料の偏在により九州各県を同じ視点・方法で並列させて比較検証することはかなわなかったが、五高文書の分析により明らかになり始めた高等中学校の制度および教育内容の実態は、各県の資料を複合的に用いることによって事実関係の補完や検証が可能である事が本研究により明らかとなった。 研究成果の総括として、『「学校間接続関係の形成と近代教育政策の地方における受容過程に関する実証的研究」(課題番号22730621)研究成果報告書』(2013年)を発行した。
|