最終年度である本年度は、教員評価制度に関する法制度をめぐる議論に着目し、教員観あるいは教員養成観を整理することで、「現代米国の教員養成制度改革における諸伝統」の現状を明らかにすることにした。 周知の通り、米国では教員養成における新自由主義的改革が推し進められる中で、教員評価についても成果主義、競争主義といった性格を有する法制度の整備が進められている。第82期(2011年)テキサス州議会において審議された第4号法案(Senate Bill 4)は、生徒の学力達成度を含んだ教員の「効果性(effectiveness)」の指標を教員評価に使用する法案である。さらに評価において不適格とされた教員は、学校区との契約が延長されないことを通告可能とする法案として全米的な注目を集めた。同法案は、連邦政府が指向する教員評価の典型事例ということができる。 同法案の賛成派は、生徒たちの学力格差を埋めるために教員の役割が重要であるという認識の下、これまで有能な教員の認定、職能開発、雇用を維持するための政策が十分ではなく、州が教員評価に主導的な役割を果たすべきだとする。他方で反対派は、州が教員評価に積極的に介入しても生徒たちの学力格差を埋めることにはならず、むしろ学校現場の疲弊と混乱を招くと主張する。同法案をめぐる大きな論点は、教員評価における「児童・生徒の学力達成度の評価配分比」であった。換言すれば州が規定する学力テストにおける児童・生徒の学力達成を確保することが、どの程度、教員の評価を受けなければならない主要な職務になるか論点になったといえる。具体的には同法案の制定過程において、その比率を「50%」とすることが議論された。 同法案を分析することで、米国の教員養成制度改革において新自由主義的な改革が推し進められる中でも、未だ多様な考え方があり、活発な議論がなされていることを確認することができた。
|