本年度は、研究計画に従い、1990年代以降に顕著となる各州教育労働法制改革の全米的な動向を検討の対象とした。研究代表者はこれまで、ミシガン州における教育労働法制の法制史ならびに、法改正がもたらすインパクトを検討してきたが、同様の法改正が、イリノイ州、オレゴン州、ペンシルバニア州、ウィスコンシン州、ニューメキシコ州等でも行われており、米国における教育改革の一つの潮流を示すに至っている。本研究においてはこれら各改正州法の法制分析を行い、従来、学区教育委員会と教員団体との団体交渉領域とされてきた教育政策事項に関する交渉が禁止ないし縮小されている点や、公立学校教員の争議権を制限ないし禁止する法改正が行われていることを明らかにした。 また、次年度以降に予定している、米国における新自由主義下の教員法制改革に関する予備調査を行い、特に、2002年に連邦初等中等教育法の改正法として制定された「どの子も置き去りにしない法(No Child Left Behind Act:以下、NCLB法)」の法的枠組みと、そのもとで展開されている連邦教員政策に関する分析を行った。NCLB法は、主要教科(core academic subject)を担当する全ての教員が「高い資格を有する教員(Highly Qualified Teachers)」であることを、各州・学区に義務づけるものである。また、各学校における学力成果の到達度を厳格に査定し、目標の進捗度を達成できなかった学校には、「是正措置」として、当該学校の教職員の入れ替えや、チャータースクールへの転換など、厳しい制裁を課している。本研究においては、これらNCLB法の法的特徴が、従来の教師の労働条件、身分保障法として機能してきた教育労働法制やテニュア法と抵触する可能性のあることを検討した。
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