本研究の最終年度においては、前年度までの連邦教員政策の分析を引継ぎながら、これらの政策が州レベルの法改正に与えている影響について分析を行った。特に、オバマ政権のもと、教育政策の目玉とされた「頂点への競争(Race to the Top)」プログラムが、競争的資金獲得の条件として設定した「選考基準(selection criteria)」を通じて各州政府を政策誘導し、従来、連邦政府が介入し得なかった州法レベルの教員関連立法の改正を促す役割を果たしていることに着目した。 本研究においては、こうした連邦政策を背景とする州法改正の特徴を、ミシガン州の教員関連立法の改正動向を素材として検討した。ミシガン州は「頂点への競争」プログラムの資金を獲得できなかった州であるにも関わらず、「選考基準」に示された教員関連施策がよりラディカルに実施された州である。同州における具体的な教員関連立法の改正として、第一に、教員の実質的な終身雇用権である「テニュア(tenure)」の取得条件を担当する生徒の学力テストの結果と結びつけるテニュア法の改正、第二に、学力テストの不振をテニュア教員の解雇事由とする法改正、第三に、教員評価の主要な評価項目に学力テストを位置づけ、教員の評価結果を4段階にランク分けする学校法の改正、さらに第四に、上記の教員評価やテニュア教員の処遇等に関する事項について、教育委員会と教員組合との団体交渉を禁じる労働法の改正が行われていることを明らかにした。 上記の分析から、本研究では競争的資金を名目とする連邦政策が、資金獲得の成否に変わらず全州的な州法改正を促している点、また学力テストの結果が教員の処遇に結びつけられることにより、教員の資質が学力テストを向上させる「効果(effectiveness)」へと特化せられていることを明らかにした。
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