本研究は、西田幾多郎のテクストを人間諸科学との比較思想的な検討を重視しつつ人間形成論として読解し、教育学の分野から新たなコンテクスト設定を試みるものである。初年度の平成22年度は専ら研究の基礎的作業に充てられ、当初予定していた研究成果の発表までには至らなかったが、本年度中の実績を各論的に示せば以下の通りである。 (a)新版『西田幾多郎全集』の電子データ化は、テクストの検索・引用の利便性を高める意義を持つものであるが、いくつかのハプニングがあり大幅に遅れている。電子データ作成のためのスキャナー購入に際し、機種選定・見積もりから納品までかなりの時間を要したほか、スキャナーとパソコンとの接続方法や、スキャンしたデータのファイル保存方法に関して、慣れない作業を進めるなかで予想外に手間と時間を取られることとなった。年度末の時点でようやく電子データ作成・保存の過程が軌道に乗り出した段階にある。この作業を次年度の早い時期に終了したい。 (b)諸領域の文献の収集・検討に関しては、西田哲学・日本思想の関連文献のほか、本年度は精神医学・精神分析の関連文献にやや重点を置いて収集を行った。これをもとに次年度には、「臨床哲学」を掲げる精神医学者・木村敏における西田哲学の受容に関する研究発表を行う予定である。 (c)国内・海外での資料調査に関しては、国内在住の研究者を訪問して、海外調査の前提となる情報提供を受けた(金沢および弘前への出張・聴き取り調査)。特に弘前では、海外資料調査のほか、テクストの電子データ化についても有益な情報を得ることができた。提供された情報ならびに刊行されている先行研究を参考にして、次年度にはアメリカ合衆国での1週間程度の資料調査を行う予定である。
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