本研究の目的は、1900年代から1920年代における保育記録の成立と変容の過程を検討し、保育者における保育実践の意味の変遷を明らかにすることにある。とりわけ1900年前後における児童研究との関係に着目して、保育を語る語り口が成立するプロセスを記述しようとしている。そのため2012年度は以下の作業を行なった。 (1)長野県松本市を訪問し、1900年代から1920年代の松本幼稚園の資料の収集を行った。具体的には、保育者による保育記録である保育日誌、保育者が学者の講演や書籍を抜粋しつつまとめたノート、「児童研究」「幼児研究」「玩具の研究」等の保育者が実際に行った研究の記録の閲覧と撮影を行った。抜粋のノートについては、先行研究を参照しつつ原典の確認を行った。 (2)幼児教育に不覚かかわりながら児童研究を展開した松本孝次郎について、国立国会図書館、東京大学総合図書館等で雑誌記事と書籍の収集を行った。 (3)松本が参照したアメリカの心理学者の1900年前後の児童研究に関する議論、とりわけ児童研究運動を先導したスタンレー・ホールと、児童研究運動を批判したヒューゴ・ミュンスターバーグ、ウィリアム・ジェームズの論争について、資料調査と収集を行った。 (4)これまでの調査をふまえ、松本孝次郎の児童研究と幼児教育の関わりについて論文にまとめた。
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