平成24年度は、手工科教育の模索期(1886年~1906年)および定着期(1907年~1925年)に実施された「文検」手工科の出題傾向や内容についての分析を行った。 1.手工科教育の模索期(1886年~1906年)の「文検」手工科においては、手工科担当師範学校教員に必要な資質として、工業ないし産業における構想・計画・立案・段取りなどに関わる創意的・構成的能力を第一義に位置づけた物品製作の技能が最も重要なものとして求められるとともに、手工科教育の活動を主導する目的的価値課題の理解および手工科教育の教育課程を編成し得る能力も必要不可欠なものとして重視されていた。 2.手工科教育の定着期(1907年~1925年)の「文検」手工科においては、創意的・構成的能力を第一義に位置づけた物品製作の技能とともに、図学の知識およびそれを応用した製図の能力が最も重要なものとして求められていた。さらには工業分野の基礎を学ばせるという手工科教育の目的論やそのための指導法の理解、および教育課程を編成する能力も手工科担当師範学校教員に必要不可欠なものとして重視されていた。 これらの点から、手工科教育の定着期(1907年~1925年)における「文検」手工科では、模索期(1886年~1906年)における内容、および1910(明治43)年に制定された「師範学校教授要目」(文部省訓令第13号)に比して、図学や製図の能力を位置づけた工業分野につながる基礎的知識や技術が重視されていたとみることができた。 国民教育の中で手工科教育が定着した時期において、文部省自らが主催していた「文検」手工科がこうした特徴を有していたことは、手工科が、図学や製図学習を位置づけた工業分野につながる基礎的知識や技術を学ぶ教科であったとみなされていたことを意味しており、手工科教育史上重要な意味をもつと考えられた。
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