平成21年度までの研究課題「戦前生活綴方における教育評価の理論と実践に関する研究」を発展させ、戦前・戦後の綴方・作文教育における学力構造論と教育評価に焦点をあてて分析を行った。戦前の教師として加藤周四郎(秋田)、戦後の教師として西條昭男(京都)、佐藤寛幸(大阪)、仲俣勝義(鹿児島)に特に焦点を当てて分析を行った。 加藤周四郎の、生活の悩みを書き議論する「協働」の実践については、奥平康照「子どもの文化的不平等と現代教育方法学の課題」日本教育方法学会編『教育方法39 子どもの生活現実にとりくむ教育方法』(図書文化、2010年)に示された戦後生活綴方の整理にヒントを得て、分析中である。 西條昭男についての研究成果の一部は、第59回全国作文教育研究大会第19分科会(2010年8月6日)において発表した。作品の鑑賞、批評によって、子どもたちの作文観を転換させ、学校的価値観に依らずに、自分のリアリズムを追求できるよう指導していることを明らかにした。また、いわゆる「荒れた」経験のある学級では、作文を書かせることから始めるのではなく、学習・生活面に向かう姿勢を立て直させ、基本的な読み書き算の力をつけさせていくことにも力を入れながら、子どもたちとの信頼関係を築いていった点に注目した。 佐藤寛幸、仲俣勝義については、インタビュー調査、論文・実践記録調査を行い、その実践や教育論の特徴についてまとめている。今後も継続し、綴方教育論や学力、自己表現とその評価についてより精査していきたい。佐藤寛幸については、野名龍二の綴方教育論とも合わせて検討を進めることが必要となる。 なお、今年度は科研のテーマに関わる出張についても、学内研究費から捻出できたため、科研費を史資料の収集に集中して使用することができた。
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