本研究では、グレゴリー・ベイトソンのコミュニケーション論を理論的な基礎に据えて、エコリテラシーの考え方も踏まえながら、環境教育と芸術教育の融合した教育実践の豊かな可能性をさぐっていくことを目的として考察を行った。本年度は、ベイトソンのエコロジカルな思想についての研究を深めた。ベイトソンのエコロジーに対する考え方は、自然環境との関わりだけではなく、ひとやものなど私たちを取り巻く世界全体との関わり方や認識の仕方それ自体を関係のネットワークを前提としたシステムとして問いなおすものであり、「科学」の埒外に置かれてきた領域をも統合した認識の必要性を提起するものであったことが改めて確認された。また、小学校の図工教育において環境との関わりを意識した総合的な学習の実践を通じて、感性と理性を総合させていくことの意義や、図工や美術教育がもつ総合的な学びの可能性についての示唆を得ることができた。さらに、持続可能な開発のための教育(ESD)や環境保全活動等への取組みについて学び、主体的に関わり領域横断的に取組むことの意義のみならず、場や地域に根差した活動の意味について再認識することができた。また、エコリテラシーは、自然の生態系のシステムのネットワークの諸原理や知恵に倣って、私たちの生きた世界のあり方を捉えていこうとするところに特徴があり、体験的に感性と理性の双方を総合的に身につけていくことをめざしている。本研究を通して、分化した領域を前提として繋いでいく思考ではなく、関係のネットワークを前提として認識していく思考の重要性を確認できたとともに、環境教育と芸術教育を融合していくことにより二元論的発想を超えていく実践の可能性も見出すことができたと考える。成果発表については、期間内に十分に行うことができなかったが、今後さらに研究を深めて反映させていきたい。
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