今年度のリサーチ・クエスチョンは、2000年代以降なぜ少人数学級施策が地方政治の焦点となったのか明らかにすることである。少人数学級編制を独自に導入した山形県、埼玉県志木市、愛知県犬山市の分析結果から次のような知見が得られた。 第1に、地方政治において、教育の政策選択の自由度が増したからである。これは法制度とその解釈の変化が最も重要であるが、それに付随して会合等の文部科学省による従来型の画一化バイアスが減少したことも指摘した。 第2に、少人数学級編制がレバレッジの大きな施策だからである。都道府県にとっても市町村にとっても教員の雇用に伴う費用は本来ほとんどゼロである。都道府県の場合、国庫負担金と地方交付税という中央政府からの財政移転によって人件費はまかなえる。市町村に至っては本来雇用する必要すらない。このように手厚い(分厚い)財政移転の仕組みがあるからこそ、財政危機の時代においても単独事業として教員の雇用や少人数学級編制が選択肢として浮上する。この少人数学級編制は財政再建期における採用可能な数少ない目玉施策である。財政に最終的な責任を持つ首長がこのような施策を見逃すことはない。 第3に、普遍性の大きな施策だからである。教育政策は公共事業と異なり、域内全域に関わるものである。さらに、アピール対象となる世代は児童生徒世代だけでなく、保護者世代、あるいはすでに保護者ではないが教育を受けたことのある世代全体である。教育政策のもつこの遡及性により世代的にも多くの住民、有権者の支持を調達しうる。
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