分権改革がもたらした教育行政へのインパクトを理論的・実証的に明らかにした。具体的には、少人数学級編制を独自に行った自治体の事例分析をつうじて、以下の2つの観点から知見を得た。第1に、地方政治の局面では、分権改革以降の教育行政改革には首長をはじめとする政治家が影響力を行使するようになったことを指摘した。第2に、政府間関係の局面では、融合的政府間関係を前提として、中央政府からの財政移転に依存したまま地方政府が独自施策を展開していることを明らかにした。このことは、いわゆるソフトな予算制約を析出したことになる。 第1の教育行政改革に対する首長等の影響力行使については、つぎの2点に分節化できる。一つ目は首長である。首長は予算編成権限をもっていることから、独自施策を実施する際に決定的な影響力を持つことになる。従来は、中央政府(文部科学省)が設定するサービス水準から逸脱することができなかったのに対して、分権改革以降はサービス水準を変化させることが可能となった。特に、分権改革の初期には、首長は予算を追加することでサービス水準を向上させた。なお、首長の行動に影響されて、議員(議会)も教育に関する政策立案過程に参入した結果、議会での政策論議が活性化した。 第2の政府間関係の局面については、次のようなメカニズムによって分権改革の帰結がもたらされた。まず、先進的に独自施策を展開した地方政府の影響を受け、中央政府が権限移譲を行った(行政的分権)。その後、独自施策の実践が蓄積するにつれて、地方政府は中央政府に対してより柔軟な補助負担金の活用を求めるようになった。その結果、中央政府は従来の補助金プログラムの使途を柔軟化したほか、全国規模での少人数学級編制も導入することになった(財政的分権)。ただし、財源移譲が行われたわけではなく、依然として地方政府は中央政府からの手厚い移転財政に依存している。
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