本研究では、調査対象が学校(学級)に属する児童生徒である場合のように、その構造が階層的である学習に関するテストについての既存のデータの再分析を行う。その際には、分析モデルについて、上記のようなデータの階層性とカリキュラムの実施状況等について何らかの形で考慮できるように拡張されたモデルを用いる。本研究は、カリキュラムの実施状況等の違いを考慮した場合と考慮しなかった場合での分析結果の異同等を示し、分析モデルの妥当性について検討することを主に目指すものである。 昨年度に引き続き、全国規模で児童生徒を抽出して行われた学力に関する算数・数学のテストにおける各項目の内容が、当該調査の実施時の学年以前に履修済みと考えられる場合と、実施時の学年で履修されると考えられる場合で、能力特性によらない学校間レベルでの各項目独自の散らばりに違いが見られるかを検討した研究を行った。この結果、前者より後者の方が、この散らばりが認められる項目の数の割合が大きいということが示された。ただし、複数のデータの間で結果は一貫していたものの、両者の間の差は必ずしも大きくはなく、また領域や内容及び問題の形式について焦点化したデータ分析を行ったため、結果の一般化可能性について課題が残された。 さらに、TIMSS調査において、各項目におけるカリキュラムの被覆状況の国間での違いに着目した研究を行った。具体的には、TIMSS2007理科調査(物理領域)のデータを用いて、同じ出題項目でもその統計的な特性が国間で異なることをモデル化し、データの階層性を考慮した上で分析を行い、各項目のカリキュラムの被覆状況の国間での異同によって分析結果を整理した。この結果、特に知識領域において、日本のみカリキュラムに含まれていないことに伴って、能力特性が同水準であっても日本の生徒にとってより解きにくい場合がみられるようになることが示唆された。
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