本研究の目的は、大学の「経営力」をインタビュー調査や質問紙調査などを通じて、実証的に明らかにすることである。大学経営の成否は規模や立地に大きく影響を受けるが、経営の仕組みや個人の資質によって改善も悪化もしえる。こうした条件を明らかにすることにより、効果的な大学経営人材の養成プログラム作りに寄与するだけでなく、大学の生き残り、地域における活性化の起爆剤としての役割を強化させることを目的としている。 初年度(平成22年度)は、主に2つの作業を行った。ひとつはこうした分野で研究蓄積の多いアメリカの大学との比較を文献研究を中心に行った。統治機構の違いや組織設計の違いが、大学の戦略的計画のあり方や大学アドミニストレーターの役割にどのような違いをもたらすのかを検討した。もうひとつの作業は、昨年に筆者が調査票の作成・調査の実施において中心的な役割を果たした2つの調査、東京大学大学経営・政策研究センター「全国大学職員調査と日本私立大学協会附置研究所私学高等教育研究所「私立大学の財務運営に関する調査」)を再分析を行い、論文などにまとめると同時に、実務者向けの研修などで発表を行った。大学の経営力を向上させるための、職員育成や中長期計画などの策定が、戦略的組織の醸成に結び付いてこそ、成果を上げることなどがわかってきた。また、戦略的な組織の醸成のための方法は、大学特性(とくに規模)や統治形態(構成員参加型の統治か、オーナー経営か)などによって有効な方法が異なることも上記の質問紙調査の再分析だけでなく、インタビュー調査を通じて明らかになってきた。規模の小さい大学は、財務分析や中長期計画の作成・実質化の努力だけでは経営改善に与える影響が小さく(規模が小さいデメリットが上回る)、こうした点についてさらに実態を解明すると同時に、意義ある政策インプリケーションについても次年度以降に検討していく。
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