研究課題/領域番号 |
22730655
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
両角 亜希子 東京大学, 大学院・教育学研究科, 講師 (50376589)
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キーワード | 大学経営 / 経営戦略 / 大学職員 / ガバナンス / 財務 |
研究概要 |
本研究の目的は、大学の経営力をインタビュー調査や質問紙調査を通じて、実証的に検証し、これにより学術上の発展と実践の両面に寄与する知見を明らかにすることである。 平成23年度については、大きく4つの観点から研究を行ってきた。第一は、昨年度に続き、事例調査によるベストプラクティスの検討である。今年度も大規模有名大学から地方小規模大学に至るまで、12大学ほどの訪問調査を行い、学長、理事や幹部職員との意見交換を重ね、仮説の生成を行った。また仮説検証のために、私学高等教育研究所と共同で経営者に対する新たな調査も行った。 第二も、昨年度に続き、研究代表者が調査票の作成・調査の実施で中心的役割を果たした既存の2つの調査(全国大学職員調査、私立大学の財務運営に関する調査)の再分析を行った。「大学が経営上選択し得る方策を発見する」ことが重要との観点から、たとえば、両角・小方(2012)では大学のガバナンス、人事制度、組織風土は、規模や選抜性などの諸条件を統制したうえでも経営改善に影響しているかを検証し、適切なパワーバランス、組織風土(業務のしやすさや課題共有)が経営改善に好影響があること、人事制度改革による直接の経営改善効果は見られないが、職員のモチベーション向上に効果があることを明らかにした。 第三は、私立大学の学長や理事長の名簿、前職、在職期間などのデータベース作成で(各大学のHPから作成)、本格的な分析は今後に行う。 第四は、研究計画にない点であるが、日本と同様に、18歳人口の減少、政府の財政緊縮で、大学経営が大きな社会問題となっている韓国との比較である。韓国では2011年に授業料半額を求める大規模な学生デモ、経営不良大学の選定や大規模監査の実施など、非常に大きな動きがあり、インタビュー調査を行い両角(2012)にまとめた。大学の経営力強化のために、学長選考方法の変更など興味深い改革が行われており、さらに研究を深める予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
私学の経営者に対するアンケート調査を研究者個人で行うのは難しく、他の研究機関(私学高等教育研究所など)と協力しながら本研究課題を遂行している。アンケート協力がとくに難しい大規模私立大学には、インタビュー調査で補うなどの工夫をしながら研究を遂行している。また、日本の大学経営にとって、もっともシステム上類似している韓国との比較研究に取り組むなど、当初計画にない課題についても、積極的に取り組み、その都度、研究成果として発表してきた。このように当初の研究計画の内容とは多少の違いはあるものの、本研究の目的にそった研究を着実に実行しており、その成果も論文や口頭発表などの形でこの分野の研究者や大学関係者に順調に発表しており、「おおむね順調に進展している」と自己評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に作成した経営者データベースの分析、昨年度に私立大学の経営者に対して行ったアンケート調査(私学高等教育研究所と共同で実施)の分析などを行い、大学の経営力向上に有効な施策を大学のタイプ(規模・ガバナンス)別に明らかにすると同時に、これまで3年間の成果を最終報告書にまとめる。またアメリカ、韓国の私立大学と制度や政策の比較することにより、経営の安定性、継続性、経営能力の向上に必要な諸条件についての仮説をまとめ、次に取り組むべき研究課題を明確にする。
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