本年度は、第一に、東京のノンエリート若年女性を対象とした経年的なインタビュー調査のデータの再分析を行った。その結果、(1)家庭環境が経済的な自立に必要な進路の選択を制約していること、(2)彼女たちのまわりにある仕事はどれも不安定だということ、(3)二人の女性が熱を入れていた「バンギャ」の活動は、生活を支えるものになっていた一方で、彼女たちにより困難な状況をもたらし得るものともなっていたこと、が明らかになった。データの再分析のためにも、来年度に継続調査を行うためにも、調査対象者と連絡を取り続け、ラポールの維持に努めた。 第二に、東海・北陸地方で暮らす、生物学的には女性の身体を持って生まれたセクシュアルマイノリティ(FtMトランスジェンダーとレズビアン)の若者たちを対象として、インタビュー調査を行った。東海・北陸地方での調査の対象者の多くは、短期大学・四年制大学の学生もしくは卒業者であったが、地方に生きる若者の労働と生活の実態を把握することができたとともに、彼女ら彼らが形成している当事者コミュニティに参与することを通してノンエリートの若者たちにも接触する機会を得た。 来年度は、東京で継続調査を行うと同時に、引き続き東海・北陸地方のセクシュアルマイノリティの若者への調査を行う。東海・北陸地方での調査は、これまで注目してきたジェンダーや階層という要因だけでなく、セクシュアリティという要因も分析軸に含める必要性を明らかにするものとなることが予想される。これらの調査と平行して、欧米諸国で蓄積されている〈学校から仕事へ〉の移行に関する研究の検討を行う。
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