本年度取り組んだことは、大きく分けて三つある。一つは、ノンエリート女性と「女性性」を売る労働との関わりについての研究である。女性たちがどのような状況でそういった労働に入職し、どのような労働に従事し、どのような経緯でそこから退出し、その後どのような労働へと移っているのかを、東京の若年ノンエリート女性を対象とした調査で得られたデータをもとに分析し、論文を執筆した(共著の書籍として刊行予定)。キャバクラ等でのいわゆる「水商売」、性産業や出会い系サイトのサクラというような、これまで個々に扱われてきた労働を、全て「女性性」を売る労働(「性的サービス労働」)として捉えることで、女性労働を分析する新たな枠組みを創出した。さらには、高校を卒業して10年目に入った女性たちを対象としたインタビュー調査を行った。 二つ目は、北陸地方で暮らす、生物学的には女性の身体を持って生まれたセクシュアルマイノリティ(トランスジェンダーの男性と、レズビアン)の若者たちについての研究である。本研究1年目に実施したインタビュー調査を分析し、彼ら/彼女らが学校での生活や、学校からの仕事への移行においてどのような困難に直面しているのかについて明らかにし、学会で発表した。併せて、調査対象者のその後の状況について知るためにコンタクトを続け、石川県で立ち上げられたセクシュアルマイノリティの当事者団体の活動にも参与し続けた。 三つ目は、これまでの自身の研究で充分に追求することができてこなかった、ノンエリートの若年女性の社会的自立への生育家族の影響、とりわけ母娘関係に焦点をあてて分析し、論文を執筆した。家庭内でのジェンダー分業により、介護や育児を担わされ、行動も監視されて束縛されている状況を浮かび上がらせた。加えて、生活指導研究において家族がどう扱われてきたかを整理して批判的に分析し、学会で発表した。
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