本研究「建国期朝鮮半島における国語科教科書研究-民族主義と国家主義の対立をめぐって-」は、建国期(1945~1958年)大韓民国(以下、韓国)・朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)における国語科が、どのような価値体系とナショナル・アイデンティティを構築したかについて考察する。なお、第2次世界大戦後、朝鮮半島の諸国と同様、連合軍による占領・軍政期の経験を持つ日本・ドイツとの比較検証を行うことで、具体的には、冷戦時代下各国における教科書をめぐる「民族主義」、「国家主義」といったイデオロギーの対立に注目し、戦後初期国語科における言語教育とナショナル・アイデンティティの諸問題を明確にさせることを目的とする。【平成22年度】の成果は、以下のとおりである。 i-建国期朝鮮半島の国語科の場合、一種類の国定教科書であったために、1945~1958年までの中等学校国語科(それぞれ24冊と12冊)すべてを分析対象とし収集した。資料は、マイクロフィルムの紙焼きと現物・LizadTech Djvu Fileでの閲覧とした(韓国教育開発院図書館、韓国教科書博物館の図書室)。 ii-日本の場合、戦後初期の「広域採択以前の上位10社の発行部数」(中村紀久二、前掲報告書、1997)により、上位6社である東京書籍、学校図書、二葉、三省堂、光村図書、教育出版の教科書を収集した。 iii.ドイツの場合、ゲオルク・エッカート国際教科書研究所附属教科書図書館において、中等教育の『Deutsch』を収集した。【平成23年度】には、北朝鮮の戦後初期における教育史に関する資料を収集した。本研究の実績(成果)は、以下のようである。主に、建国期韓国における国語科の特徴である。解放直後の南朝鮮では、米軍政庁の管轄下に置かれたため、様々な改革が行われたが、とりわけ、教育再建は重要な課題であった。教科書の開発や制作に関しては、朝鮮語学会に委託するようになる。米軍政庁の依頼を受けた朝鮮語学会は、国語学者及び教育関係者で「教材編纂委員会」を構成し、解放後初の中等国語科教科書である朝鮮語学会編著の『中等国語教本』(上・中・下)などの国語科教材を発行する。この『中等国語教本』は、1948年の建国前後に存在した左右対立という混乱した状況の中で、左右作家のテキストがともに掲載された点からは評価できる。しかし、日本帝国の朝鮮総督府編のr中等学校朝鮮語及漢文読本』と重複する教材も数多く、植民地朝鮮時代における帝国主義の原理をそのまま継承し、「国民精神涵養」という目標で国家イデオロギーを直接的に反映しているなど、植民地朝鮮時代から解放後にわたる「連続性」の問題も明確であった。
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