本研究は、スウェーデンモデルの成立過程において、成人教育関連政策がいかなる課題に対峙するものであったのか、スウェーデンモデルのなかで民衆教育・成人教育はどのような機能を期待されてきたのか、その結果どのような成人教育システムが形成されたのかを明らかにすることを目指すものである。 本年度は、8月にスウェーデン北部・ノルボッテン地方のカーリクス市に3週間滞在し、約70年前に設立されたカーリクス民衆大学において、参与観察、学校関係者や地域の民衆教育団体へのインタビューをおこない、設立経緯、教育理念、教育実践の特徴、市民社会および産業社会との接続のありようなどについて調査した。あわせて学校史や地域史などの各種資料を閲覧・収集し、年度後半には、これら資料の精査をおこなった。首都から遠く離れた農村地域においては、多様な資源を有する都市部とは異なり、民衆運動を基盤として設立された教育団体が、政治、経済、文化など他領域にわたって重要な役割を果たしてきたことが具体的に明らかとなった。一方で、そうした機能がほかならぬ教育団体に集約されてきたことについて、その必然性をめぐる検討が以後の研究課題として明確化された。 また、この作業と並行して「スウェーデンモデル」概念についての文献調査をおこない、特に成人教育の領域でいかなる特徴がスウェーデンモデルとして語られてきたのかを考察した。スウェーデンの成人教育モデルは、政府開発援助や民間国際協力団体を通じて広く世界に「輸出」されているが、そこに込められている期待には、スウェーデンの民衆教育・成人教育が歴史的に形成してきたイメージが反映されている。ここから垣間見えるスウェーデン社会の自己像を手がかりに、次年度以降、引き続きスウェーデンモデルにおける成人教育の位置づけについて研究を進めていくこととする。
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