本研究は、スウェーデンモデルの成立過程において、成人教育関連政策がいかなる社会的・政治的・経済的・文化的課題に対峙するものであったのか、スウェーデンモデルのなかで民衆教育・成人教育がどのような機能を期待されてきたのか、その結果どのような成 人教育システムが形成されたのかを解明することを目指した。 本研究を通じて明らかになったことは、以下の3点にまとめられる。(1)福祉国家形成過程においては、社会的・政治的・経済的諸課題に対してノンフォーマルな民衆教育が公的制度を補完する機能を果たしてきた一方で、その機能の一部を引き継ぐ形で公的な成人教育制度および職業訓練制度が構築された。こうした構造は、農村部における成人学習活動の現状を見ることでより鮮明に理解できる。(2)福祉国家形成過程における文化的な課題に対しては、19世紀末から続く文化運動が重要な役割を果たしてきたが、そこでは民衆教育における成人学習が有効な手段として活用されてきた。成人教育・民衆教育における文化的活動の活発さは、スウェーデンモデルに組み込まれた文化政策の成果でもある。(3)民衆教育は「成人教育のスウェーデンモデル」とみなされ、政府や民間団体はこれを、スウェーデン国民の社会参加意識の高さを民衆教育と結び付ける言説とともに積極的に国際社会にアピールしてきたが、民衆教育の普及と民主主義の発展との間に直接的な因果関係を見いだすことは難しい。 2013年度は上記の成果を総括する作業をおこない、2本の論文にまとめた。うち1本は共著の一部として2014年9月に刊行予定であり、もう1本は別の共著に組み入れるために内容を調整中である。
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