研究1年目である今年度は、「市民社会の教育参加の可能性と限界の再検討」の糸口をさぐるべく次の理論研究及び実証研究のための現地調査を以下のように行った。 【理論研究】以下の成果は国際開発学会(春季大会、全国大会)にて発表した。 1.国際教育開発の文脈における「参加」の概念整理を行った。教育システムにおける利害関係者け入れ子階層になっているとすれば、それぞれが駆使できる資源、影響を与える政策・実施の範囲は、当該の教育システムによる所与の条件となる。教育政策としての「教育参加」はこうした所与の条件の意図的変更でありひいては利害関係者がもつ影響力の変化も意味するため、そこでは必然的に政治性を帯びる。教育参加の効果の検討とは、所与の条件の変更によってどの領域・側面にいかなる変化が起きたかを測ることと整理できる。 2.所与の条件の変化がどの領域・側面に表れるかを把握するためには、各利害関係者の参加形態を政策過程(計画・実施・評価)に位置付けることが有効である。この分類は教育参加としてまとめられる異なる現象から、教育政策としてそれが原初的に内包している意義・目的と限界の抽出を可能にすると考える。 3.教育政策としての教育参加の政治性を検討するにあたって、利害関係者が教育主体となる場合、とくに教育システムの欠かせない主体である保護者、政府、教員の三者が持つ教育目的の競合的関係に注目して検討した。本点は23年度も引き続き検討する。 【実証研究】以下の成果は4月現在論文としてまとめており、近日中に投稿予定である。 4.これまで教員の教育参加としてボリビアの教員組合に着目して研究をしてきた(平成20~21年度若手スタートアップ)。そこで今回は保護者の教育参加としてボリビアの高地A市で学校運営委員会について現地調査を行った(2011年2月~3月)。データ収集方法はインタビューを採用し、対象は6校の小学校(都市部、農村部各3校)の学校運営委員会、及びエルアルト市学校区委員会、エルアルト保護者連盟、全国学校委員会の3組織のメンバーである。 5.同国は2010年12月に新しい教育法を公布し、学校運営委員会の機能が強化されることとなった。インタビューでは同委員会機能についてその法的基盤となっている1994年教育改革法と照らし合わせつつ、構成員の意識、学校における実践、行政との関係、2011年以降の見通しについて聞き取りを行った。
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