平成22年度は、学校への権限委譲と教育効果の関係性を文献資料により明らかにすることを目的とした。学校を単位とした教育効果を留年率や中途退学率の減少、就学者数の増加とした場合、一般に、教育効果は、教員の資質やその他の学校環境(校舎や教材の充実)、生徒の家庭環境との関連が強いと言われる。教員の学歴の高さや教職歴、研修経験等が教員の資質を高め、教員の自律的な活動への制限を緩和することによって、学校での教授学習活動が活発になり、その結果、教育効果が向上する。十分に整備された校舎や図書室の設置、教材の充足率等を高めることも教育効果の向上にプラスの影響を及ぼす。教材の内容や使用方法についても、教員の創意工夫をある程度緩めることと、教育効果の向上との関係も指摘されている。 学校への権限委譲の実情を国ごと、地域ごとに確認すると、委譲されている権限の内容や程度はさまざまに異なる。学校での教授学習活動に関する権限を地方の出先機関へ委譲し、その出先機関が学校を管理運営する場合もあれば、学校に設置された委員会等の組織が意思決定権の多くを握っている場合もある。本研究が焦点をあてる東南アジア、とりわけ、カンボジアとラオス、タイでは、権限の多くは地方の出先機関へ委譲され、学校に設置された委員会は学校と地域住民をつなぐ役割を期待されている。一方、これら3カ国の委員会もその具体的な役割は大きく異なる。カンボジアの委員会は、学校での教授学習活動へ幅広く介入する権限を与えられている。政府から支給される学校の管理運営についても、委員会の承認がなければ使用することができない。 学校への権限委譲と教育効果の向上とのプラスの関係、そして、学校へ権限を委譲する具体的な制度設計にもかかわらず、実際の教育効果を立証する研究は極めて少ない。平成23年度は、学校への権限委譲を教育効果へむすびつける具体的な方策を検討する。
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