本年度の研究においては、2012年3月に発表された「多文化学生教育先進化方案」の内容を分析し、それが従来の多文化教育からのパラダイムシフトであると解した。韓国の場合、多文化教育の対象が国際結婚の子どもに限定されてきたが、その対象が拡大するとともに、「公教育」の中での包摂やグローバル人材としての育成が明示されていたのである。 また、外国人女性の教育参加に注目し、その中でも在韓フィリピン人女性に限定し、彼女たちがどのように韓国の多文化教育の中で主体として関わるのかを、日本との比較の視点から分析した。 韓国では、2008年の「多文化家庭学生の力量教科のための教育支援方案」から2012年の方案にいたるまで、外国人女性たちをバイリンガル講師として養成することを明記し、京仁教育大学においてもバイリンガル講師養成課程を始め、1年間の養成課程を終えた女性たちは、学校に配置され、文化理解教育やバイリンガル教育などに取り組んでいる。しかしながら、このようなバイリンガル講師の中には、韓国で3番目に多いフィリピン人女性はあまりみかけない。それは、彼女たちが、他の在韓外国人女性たちと違う戦略を持ちながら、教育との関わり方をもっているからであった。それは、「英語」を資源として有していること、1990年代以降に急激に英語教育が拡大したにも関わらず、講師の数が不足した結果、彼女たちが英語の講師として教えるという、母語・母文化を活かすほかの外国人女性たちと違う様子を見せるものであった。 2005年以降の急激な多文化政策の発展・拡大の中で、圧縮成長ならではの「圧縮多文化化」の中で様々な政策や施策が展開しているが、家父長制や学歴社会という韓国社会で周辺化されることなく、どのように社会の一員として主体的にかかわっていくのか、フィリピン人女性の事例は、興味深いものであった。
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