公教育制度において「実践の多様性を尊重し、かつ質を保障する」ためには何が求められるであろうか。本研究は、この問いに対する回答を得るべく、オランダにおいて教育の自由がいかに保障されているか、また、教育の質保障のメカニズムがいかに機能しているかを明らかにすることをその目的としている。 本研究目的を達成するための具体的な手続きとして、四段階の調査・作業工程が設定されている。各段階の調査・作業工程を通して、オランダの教育監査制度や多様な教育実践を整理し、質保障メカニズムにおいて中心的な役割を担っている教育監査局の位置づけを、複数の観点から検討し、明らかにしていくことになる。 平成22年度は、オランダの教育監査制度の整理(第一段階)と、オランダの教育監査局に対する批判的分析(第三段階)を機能的観点から行った。文献調査を中心とする質的研究による当該年度の研究成果として、オランダの教育監査が、「すべての学校を対象とする一律的な監査」から「質の低い学校に対し集中的に資源を投入し改善を導くための監査」へと質的に変化を遂げつつある点が明らかになった。この点については、2004年度より掲げられている「重点実施の原則」や、2007年度より導入されている「リスク分析」などがその主たる要因として挙げられる。また、このような監査の新しい方向性は各学校の自己評価を基盤に行われているが、自己評価に対してはその信頼性をめぐって議論があることから、今後の方向性を注視していく必要がある点なども併せて明らかになっている。
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