高等教育のユニバーサル化への移行期における進路選択上の変化を本研究では、「選抜」から「選択」への移行と捉え、高校生の進路「選択」を支える主観的プロセスの解明を目指す。とりわけ着目するのは、進学率の上昇によって量的規模が拡大している進学/非進学のマージナル層(一般的には、成績中下位者)の進路選択行動である。ユニバーサル化に伴い大学進学機会の相対的な希少性が失われることにより、進学/非進学の境界線は曖昧化し、高校生の将来の職業キャリアに対する展望、大学進学に要する費用や進学から得られる便益に対する主観的な意味付け、高校における進路指導におけるやりとり、家庭や友人関係の中での大学進学に対する意識の醸成など、進路形成における主観的プロセスが重要な意味を持つと考えられるからである。高等教育のユニバーサル段階においては、「学力」、「費用負担能力」といった進路選択を規定するコアな要因は、すべての生徒に対して一律に作用するのではなく、高校生の部分集団において増幅されたり、相殺されたりすることも想定される。コアな規定要因と主観的プロセスの交互作用を明らかにすることにより、ユニバーサル化時代における進路選択の構造モデルを構築をめざす。 平成22年度には、変化の趨勢を明らかにするための比較参照データを得るために、これまでに申請者が実施した関東近郊の進路多様校(高等学校)の進路指導担当教員および高校生に対して実施したインタビュー調査のデータのうち、進路決定の阻害要因として経済的要因がどのように語られていたかを抽出し、データの再コード化ならびにドキュメントのデータベース化を実施した。あわせて高校卒業生を対象とする既存の大規模調査の分析から、進路選択に関するの数理的なモデルを構築し、モデルからの偏差(残余部分)について、さらなる検証が必要な要因(変数)に関して、インタビューデータの再分析から仮説的な検討を行った。
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