研究概要 |
平成22年度の研究の成果は大きく次の三点である。第一に,Furinghetti & Morselli (2004,2007,2009), Heinze et al (2008)の先行研究を整理し,認知的・情緒的要因と,それらの相互関係を分析する視点を得た。 第二に,表現・行為レベルの認知的・情緒的要因を探るために,中学生によって書かれた証明をもとに,「未完成な証明」をいくつかのタイプに類型化した。そして,Heinze et alによる証明の構成過程に関する理論枠組みとインタビュー調査によって得た発話データとをもとに,各タイプを生み出す認知的要因を分析した。その結果,証明の構成過程において仮定と結論を繋げる架橋過程が重要な鍵の一つであることが分かった。しかも,架橋過程には,下位の行為が存在しており,この各行為の遂行の困難が「未完成な証明」を生み出す要因となっていることがわかった。また,「未完成な証明」の認知的要因には,同じタイプでも要因が異なるものもあれば,異タイプでも要因が重なり合うものもあることがわかった。これらの成果によって,「未完成な証明」をもたらす諸要因を探るポイントを絞ることができた。また,表現・行為といった表層の背後に隠れている本質的要因には,表現・行為レベルでの類型化とは異なる構造(メカニズム)がある可能性を示唆している。 第三に,「未完成な証明」を生成する際の推論の特質を明らかにするために,証明問題を成功的に解決した生徒の推論過程と比較・検討することを計画した。そこで,証明問題を成功的に解決した生徒に対するインタビュー調査を実施し,成功的証明者の証明過程における思考・推論の特徴を分析した。その結果,成功的証明者は架橋過程を成功的に遂行するために,「結論から逆向きに推論すること」,「証明の誤りや無駄な経路を修正すること」を行っていることがわかった。これによって,「未完成な証明」を生成した生徒の推論過程の特質を分析する視点を得ることができた。また,不安という情緒が,証明の方針の選択決定に影響を与えている様子を捉えることができ,証明過程における情緒の影響に関する情報を得ることができた。
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