研究概要 |
平成23年度の研究の成果は,次の通りである.第一に,Schoenfeld(1992)による「数学的認知を捉える枠組み」を調べ,「未完成な証明」を生成する中学生の要因の認知的側面を捉える視点として,「基になる知識」,「問題解決ストラテジー」,「モニタリングとコントロール」が明らかになった.この結果,要因の認知的側面を漠然と捉えるのではなく,各視点から分析する必要があることがわかった. 第二に,「基にある知識」の観点から,「未完成な証明」を生成する生徒でも,平行線の性質,三角形の合同条件,合同な図形の性質といった基本的な数学的知識を持っていた.一方で,そうした生徒は,例えば,平行であることから導かれる「性質」を導くことはできるが,平行になるための「条件」を見出せないというように,数学的概念の「性質」と「条件」の両方を調和的に把握できないことがわかった.このことが,証明のストラテジーである「後向きに推論する」を困難にする要因の可能性が高いということがわかった. 第三に,「問題解決ストラテジー」の観点から,「未完成な証明」を生成した中学生は,証明問題に成功的に解決した中学生とは違って,前提からの前向きに推論するだけで,結論から後向きに推論することに困難を持っていることがわかった.しかし,ある生徒が結論からの「後向き推論」ができるにもかかわらず,「未完成な証明」を生成したことから,「前向き推論」と「後向き推論」とを繋げる第三の推論が鍵となることがわかった. 第四に,証明過程における中学生の思考・推論の様相を調べる際に,カードを使うことが,「前向き推論」と「後向き推論」とを繋げられるかどうか,そこでの思考・推論の特質を見出すのに有効であることがわかった.
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