本研究は、市民性(シティズンシップ)の育成を目指した英米での理論や取り組み、教育実践を考察し、わが国における実践活動と比較して実証的研究を行うことにより、よりよい社会を創造し維持する市民としての責務を全うし、そのための能力を、生涯を通じて高めていく市民を育成するあり方について論証しようとするものである。 イギリスでシティズンシップがナショナル・カリキュラムの新教科として導入されて以来、ヨーロッパのみならず世界の各国でシティズンシップ教育(Citizenship Education)の関心が高まっている。アメリカでは「参加」型学習を取り入れ、地域社会の課題解決を目指した社会的活動に生徒を積極的に関与させ、生徒の市民性(citizenship)を発達させることをねらいとした教育方法であるサービス・ラーニング(Service Learning)の取り組みが注目されている。そこで、活力ある市民社会を担うべき「公民」の育成について、多角的に考察を行った。 平成22年度は、(1)イギリスにおける資料収集や、フィンランドにおける学校教育現場の視察・訪問調査などを行い、(2)イギリスのシティズンシップ教育導入の際に重要な基盤となった『クリック・レポート』をめぐる内外の評価についての文献整理及び理論マップを作成する作業を進めた。さらに、(3)アメリカで市民性(シティズンシップ)育成を行う教育手法として注目されているサービス・ラーニング(Service Learning)を取上げ、理論研究及び学校現場で実践可能なプログラムに関する検討を行った。また、(4)日本におけるシティズンシップ教育に関する政治学、行政学、教育学における理論的枠組みの整理をし、学校と地域社会との連携の取り組み活動を継続する中で、育成すべき市民性(シティズンシップ)について検討した。
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