本年度は、世界各国がリテラシーやコンピテンシーを主軸とした教育を展開する中で、ドイツの音楽科教育において児童・生徒に獲得させようとする能力がどのようなものなのか、その現状と可能性を明らかにすることを目的に、以下のとおり実施した。 1.比較教育学関連の文献を収集し、教育スタンダード作成の枠組みとなったクリーメ鑑定書と常設文部大臣会議の教育スタンダードに関する発表を照合し、スタンダード構想の経過を整理した。ここで議論されたスタンダードの要求水準は、音楽教育分野において実践をとおして議論の対象となっていたことが明らかとなった。音楽科教育もスタンダード化へ傾倒する学校教育全体の変化に少なからず影響を受けていた。これによって、音楽科教育におけるスタンダードをめぐる議論および改革に関する研究の重要性が高まった。 2.教育スタンダードが作成されはじめた2002年以降を対象として、音楽科教育の実践的雑誌Musik und Bildungの記事を精査し、音楽科教育における教育スタンダードに関する議論を検討した。この時期の議論にはスタンダードに対する肯定的、否定的、両者の見解が含まれていたが、芸術領域に属する音楽科のスタンダードに関しては、あくまで音楽科教育の文脈で理論的検討および経験的検討が必要であり、本質的な授業の質的向上をめざそうとするものであった。これによって、現在までの音楽科教育における教育スタンダードに対する見解の一端が明らかとなった。 3.教育スタンダードにみられるコンピテンシー・モデルを踏襲した学習指導要領としてバーデン・ヴュルテンベルク州の音楽科カリキュラムをとり上げ、同州のギムナジウムの学校カリキュラムとの整合性を検討した。学校カリキュラムは学習指導要領で規定された内容をさらに細分化、補足・発展するものであった。これによって、実践レベルにおけるカリキュラムの変容をさらに明らかにする必要性が高まった。
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